なぜ ClearRemote を作ったか
2026年8月7日に X(旧Twitter)へ投稿した文章の全文です。 元の投稿を X で見る →
Chromeリモートデスクトップをはじめ、国産のフリーソフトも含めて何本か使ってきたんですが、 自分の使い方に合わなかったのでけっきょく自分で ClearRemote というリモートデスクトップソフトを書きました。
使っていたリモートデスクトップはどれも良いソフトでした。 使わせてもらってきた側だし、悪く言う気はまったくありません。 ただ、わたしの使いかたと合いませんでした。
うちは愛知県小牧市の7人の町工場です。 わたしはCAD/CAMで3Dモデルをくるくるして CAM をやりつつ5軸マシニングセンタで機械加工をやり、 それでいて社内の30台近いPCやサーバの面倒も見て、客先から来る大量の見積もり依頼を社員みんなと Salesforce とファイルサーバの上で連携しながらおこなって、部品生産のプランニングもして、 本社事務所にある財務データ用PCで経営数字を見て、その合間に Salesforce のオブジェクト開発や ソフトウェアの開発を行ない、Xのタイムラインを閲覧する、みたいな毎日を送っています。
このように仕事を進める際には、わたしの居る加工拠点から20km先の本社にある財務用PCも、 サーバルームに置いてあるサーバも、CAM用ワークステーションも、生産管理用のPCも、 ソフトウェア開発用のPCも、ぜんぶ手元のPCから移動せずにリモートで触ってます。
というくらいには毎日リモートデスクトップに依存しているリモートデスクトップジャンキーです。
事務所の人たちも自宅からリモートワークをすることが多いので、リモートデスクトップジャンキーの予備軍です。
そもそも、なんでPCを分けてるのか
用途ごとにPCを分けてます。
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財務用のPC
加工の拠点から20km離れた本社に置いてあって生産管理システムやCRMとつながっていて データベースとやり取りしまくっているので、メモリが常に上限いっぱいまで使われていて 他の用途と兼用できません。 あと会社のお金のデータが入ってるので、限定された人しか触れない場所に置いてあります (もちろんバックアップは万全) -
CAD/CAM用のワークステーション
CAMの計算機パワー要求が高いので高価なCPUとGPUを積んでるワークステーションです。 粉塵とオイルミストがただよう(うちは冷暖房完備でそこまで漂ってはいない)加工現場には 置きづらいのでCAM室に置いてある工場は多いと思います。 ワークステーションに粉塵とオイルミストを吸わせるとファンや基盤がコテコテになって ケーブルがネチョネチョになってクソ高いGPU基板がやられてしまいます。 だからワークステーションは空調と空気清浄機の効いたCAM室に置いて、 加工現場に置く手元用のPCとは分ける必要があります。 -
ソフトウェア開発用のPC
AIさんが常駐して拠点にしているPCです。 実はこの ClearRemote も、AIにコードを書かせながらそのPCで作ってます。 Salesforce のオブジェクト設計もこのPCです。エディタもテストもAIのエージェントも Chrome のタブやサブエージェントを開きまくってメモリを遠慮なく使うので、 メインPCと兼用すると重すぎたので分けました。 AIでのソフトウェア開発は動かしっぱなしで演算時間が長いです。ビルドやテストが回ってる間は放置して、 「できたかな?」とリモートデスクトップで手元PCから様子を見に行ってます。 搭載メモリ多め、ディスプレイ無しのPCです。 -
生産管理のデータ入力用のPC
バーコードでピッとして加工品のデータを取り出したり、進捗管理をするための端末で、 みんなが触る共用PC。 生産管理のソフトのライセンスがちょい高くて、社員みんなの手持ちPCにそれぞれ入れるのは困難。 安いノートPC。 -
自分(社員)の手元のメインPC
メールやファイルサーバのドキュメント編集や、リモートデスクトップを使って上記のPC全部へ アクセスするため大画面のディスプレイをいっぱい並べたお手元PC。 GPUオンボード(ただし高性能)の消耗品PC。
CAD/CAM(OPEN MIND hyperMILL)のネットワークライセンスはVPN越しが「要相談」になっているので、 手元のPCで hyperMILL を動かすことはできなくはないのですが、本社にライセンスサーバが置いてあり、 そのネットワーク内の本社のワークステーションで動かして、それをリモートデスクトップで操作するほうが ライセンスぶっ千切れダウンのリスクが少なくなります。
またSEさんとかによくある話ですが、客先に置いてある自分用の橋頭堡(きょうとうほ)PC端末 というのもあると思います。 常駐先や納入先の不具合は、そのネットワークの中でしか見えないものがあります。 名前解決がおかしいとか、共有が見えないとか、特定の業務システムだけ遅いとか。 ネットワーク外から電話で聞いてても症状そのものが再現しない。 自分の端末を1台客先のネットワーク内に置いておいて、そこに入ってネットワークの中から見られると、 一次切り分けを済ませてから動けます。行かずに済むこともあるし、 行くにしても持っていくものが決まった状態で行けます。
中規模な会社でよく困っているのが生産管理システムの入力端末です。 ライセンスや端末の数が契約で決まっているのでデータ入力できるPCが数台しかない。 台数が少ないのでちょっと遠くに歩いていかないといけない。 生産管理のために生産の手が止まる感じッスねー。 シマダ機工ではお手元PCからリモートデスクトップで入力端末に入って処理してます。 画面は1つなので操作するのは同時に1人です。 歩く時間が消えて手元でできるだけでだいぶ違います。 「入力端末は1台」というライセンスの契約条件にしたがっているので、ライセンス違反にはなりません。
このようにPCを機能ごとに分けるというのは必要に迫られておこなってきたことです。
問題は「じゃあこれを触りに行くときどうしよっか」でした。 PCを分けた数だけ、席を立って歩く時間が増えます。 CAM室まで往復するのもダルい。 20km先は行くだけで往復1時間コース。
リモートデスクトップを使うと、ぜんぶに手元のPCから手が届きます。 席を立って移動する必要がありません。 20km先の本社にはVPNでネットワークに入ってから操作していて、自分がCAM室に行って 3画面マルチモニターのワークステーションを触っているのと体感が変わりません。 事務所の2画面マルチモニターの財務用PCにも自分本体の移動なしで操作しに行けます。 まるでワープです。 企業のネットが星を被い、電子や光が駆け巡っても国家や民族が消えてなくなるほど、 情報化されていない近未来です。 出不精のわたしにピッタリ。
なんですけど、そこで使うリモートデスクトップソフトで、使うたびにこうだと良いな、 と思ったところが3つありました。 個々に満たすものはありましたが、ただ、3つぜんぶ揃うものが見つからなかったし、今でも見つからない。
1. キーがそのまま相手に届くこと
Chromeリモートデスクトップだと、半角/全角キーが効かない。 遠隔操作中に日本語入力を切り替えられないので、日本語を打つたびにマウス操作で右下の Google日本語入力アイコンポチーしにいかないといけない。 ESCも長押しすると全画面表示が解除されてしまいます。 別のソフトでは、Alt+Tab が手元のPCに効いてしまう。全画面で接続先の作業しているのに、 Alt+Tab すると切り替わるのはこっちのPCの窓なので、いっしゅん何が起こったのかわからなくなるのと、 リモート先でアプリを切り替えるのにマウスポチーしないといけないのがずっと不便でした。
2. CADモデルや加工パスの細い線がにじまないこと
遠隔操作の画面はネットワーク越しで通信量を少なくするために圧縮がかかることが多くて、 微妙にぼやけてストレスになります。 CADやパスは削り残しがないか、食い込みが無いか、かなり細かいところまで見るので ボケられると困るんです。老眼と区別がつかないし。 キレイな画質にしようと圧縮率やFPSを下げると、今度は通信量が増えるので遅延がつらくて またストレスになります。 (これは満たしているものもありました。速くて画質も申し分ないソフトはあります。)
3. 相手の2画面や3画面を、こっちの手元PCでも2画面や3画面のまま見られること
これがお手軽にできるのがなかなか見つからなかったです。 1枚にまとめるか、タブで切り替えるスタイルが多いです。 切り替え式だと、モニタをまたいでウィンドウを動かすたびに切り替えることになって、 めっちゃ使いにくい。
で、ずっと不満で乗り換え先のリモートデスクトップソフトも見あたらないし、 だったら自分で書くか、ということになりました。
それで作ったのが ClearRemote です。せっかくなので、こだわったところを書きます。
キー入力はWindowsから全部奪う。ただし「自分が注入したやつ」だけは見分ける
低レベルキーボードフック(WH_KEYBOARD_LL)で、ESC・Alt+Tab・Windowsキー・F10まで ぜんぶ Windows より先に取って、相手に転送しています。 送るときは仮想キーではなくスキャンコードで送っているので、相手のPCから見れば本物の打鍵と同じです。 だから半角/全角キーも届いて、日本語入力が切り替わります。 切断は Ctrl+Alt+Shift+Q。 4キーの和音にしたのは、アプリが使う組み合わせとぶつからないからです。
既定はロスレス。文字と細線のための圧縮にした
画面を128×128のタイルに割って、変化があったタイルだけ送ります。 そのうえでタイルの中身を見て、単色なら「この色1つ」、4色・8色に収まるならパレット、 それ以外は生データ、と切り替える。CADの図面とか事務系の画面って「白地に細い線と文字」なので、 この分け方がめっちゃ効きます。 回線が細ければ自動で画質を落として、空いたらロスレスに戻します。 ユーザー(自分)に面倒をかけさせないフルオートで高画質ってのが大事。
相手のモニタごとに、こっちのウィンドウを分ける
手元の1枚の画面に押し込むのをやめて、モニタごとに別ウィンドウで出します。 肝は接続を1本のままにしたところです。 向こうは全画面を1枚の絵として撮り続けていて、こっち側でどのウィンドウがどの範囲を描くかだけを 切り分けてます。 だからモニタをまたぐドラッグがそのまま通るし、2画面にまたがったアプリもまたがったまま描かれます。 手元のベゼルが相手のベゼルとちょうど同じ位置にもってこれます。
でかいファイルを送ってる間も、画面が止まらない
送信キューに優先度のレーンを作って、画面と操作は最優先、ファイル転送は最低優先度に落としてます。 手元の自動テストの実測で、24MBを約1.1秒で送りながら、その間も画面は更新され続けてる。 転送後は SHA-256 で照合します。
ロック画面に遠隔でサインインできる
Windows Update とかで深夜に勝手に再起動されると、ロック画面の向こうに入れなくなることがあります。 これはサービスとして常駐させて、対話セッション側にSYSTEM権限のエージェントを置いて、 入力を受けてるデスクトップ(Winlogon)へスレッドを付け替えることで通してます。 Winlogon デスクトップを開けるのはSYSTEMだけで、管理者権限でも開けません(テスト済み)。 Chromeリモートデスクトップでもロック画面には入れるので、今までは まず Chromeリモートデスクトップでログインしてから自分のリモートデスクトップソフトに切り替える っていうのをしてましたが、しなくて良くなりました。
そのほか、地味に満足しているところ
- exe 1つ、342KB。インストーラもアカウント登録も要りません
※ 342KB は投稿当時の数字です。その後もほぼ毎日機能が増えて、現在の版は約500KBです。 - 外部サーバを経由しません。PC同士が直接つながります
- デフォルトで社内LANとVPNのアドレスからしか受け付けません。うっかりルータのポートを開けても、そこからは入れません。
- 社内の共有フォルダに新しいexeを置くだけで、各PCの ClearRemote が自動で更新されます。個別のPCに Chromeリモートデスクトップで入ってからインストールして回る必要がありません。
- ファイル転送がけっこう簡単にできます。相手に送るときは画面にドラッグ&ドロップ、受け取るときは相手で Ctrl+C・手元で Ctrl+V(向きで操作が違います)
無料版は非商用なら無期限で使えます(1セッション20分・同時接続1台)。 モニタ別ウィンドウは接続ごとに5分間おためしいただけます。 業務で使う場合と、モニタ別ウィンドウを時間の制限なく使う場合、ロック画面の操作には、ライセンスが要ります。 個人 4,800円 / 法人 29,800円から。どっちも買い切りで、あとから上の区分へ移るときは差額だけです。 買い直しにはなりません。
町工場のマルチタスクリモートデスクトップジャンキーが自分の仕事をやりやすくするために 開発したものなので、同じように困ってる人に届けば嬉しいです。
シマダ技研(シマダ機工 @shimadakiko_ofc)・ 元の投稿(2026年8月7日)・ English version